IRC Literature Club

なんかがなんかしてなんかする

◆探偵が探偵を持ち上げる話◆

 薄暗い殺風景な部屋で滝のような汗を流す男がいる。
腰を下ろし、上げる。アップ、ダウン。アップ、ダウン。回数など元より数えてはいなかった。ただ己の限界まで続けるのみ。
 両脚は既に悲鳴を上げ、腰、肩の筋肉も泣き叫んでいる。それでもなお、彼は聞く耳を持たなかった。

 男が狂ったように続けているのは、いわゆるスクワットである。膝がほぼ直角になるまで下げ、そして伸ばし、身体を持ち上げるというトレーニングだ。

 太もも特に前面の筋肉は人体において最も大きな筋肉であり、身体を鍛えるにあたって避けては通れない部位だ。そこを痛めつけることにより成長ホルモンとかなんかそういうなんかが激しく分泌する。結果(中略)体幹、心肺も強くなり基礎代謝も上がり太りにくくなるので老若男女みんなすれば良いと思う(謙虚)。

「スゥーッ!ハァーッ!スゥーッ!ハァーッ!ヌゥーッ!」

 激しくスクワットを続ける男の息は極限まで荒くなり、やがてひとこと呻くと双肩に担いでいたものを優しく、慎重に、厳かに床に降ろした。

 男だ。男が、男を担いでいた。白髪の偉丈夫である。体重は100kgを下らないだろう。その大男、タカギ・ガンドーは顔に困惑という色を塗り固め、膝を付き息も絶え絶えな上半身裸の男に声をかけた。

「……アー。おつかれさん」

 答えはない。自らを担いでいた男の古傷に覆われた身体を見下ろし、ガンドーは言葉を探した。

 聞こえるは、苦しげな息遣いのみ。